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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)373号 決定

抗告人

有限会社石神井製材所

右代表者

本橋勝

右代理人

大内英男

相手方

フジ測量設計株式会社

右代表者

馬場光信

主文

原決定を取消す。

本件債権差押及び転付命令の申請を却下する。

手続費用は全部相手方の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

按ずるに、本件記録に徴すれば、本件差押命令及び転付命令が昭和五二年五月一七日になされた同申請に基づき当事者の審尋を経ないで前記のように発せられ、同命令が本件債務者(抗告人)に対し昭和五二年五月一九日に、本件第三債務者に同月二〇日にそれぞれ送達されたこと、抗告人が同月二三日本件即時抗告に及んだことが明らかである。

一般に、債権転付命令が適式に発せられ、これが債務者及び第三債務者に適法に送達されたときは、民訴法六〇一条により執行債権につき弁済の効果が生じ、その時に該債権に対する強制執行手続は終了し、その後において右債権の差押及び転付命令に対し執行法上の不服申立をする余地はないと解すべきである。けだし、執行債権者にその危険負担のもとに優先的に債権を満足させる途を開く債権転付命令制度の趣旨に照らし、このように解さないと執行債権者、第三債務者の地位の不安定をもたらすからである。

しかしながら、債権差押及び転付命令の基本となつた債務名義に基づく強制執行につき、すでにその停止決定がなされ、執行債権者に対しその送達がなされているのに、執行債権者が故意又は過失によりこれを看過し、債権差押及び転付命令を得たような場合には、執行債権者の地位の安定を顧慮する必要はもとよりないし、右申請は、執行手続上執行債務者に対する信義に欠けるものであつて違法の誹りを免れ難い。とくに、債権差押命令と転付命令とが同時に発せられ、執行債務者が執行裁判所に対し転付命令前に右執行停止決定の正本を提出して申請の却下を求める機会をもちえないときは、執行債務者の救済をはかる必要性が大きいというべきである。従つて、右のような場合においては、執行債務者に執行停止決定の正本を追完提出する機会を与える意味において、当該債権差押及び転付命令に対し即時抗告による不服申立を許すのが相当と解される。そして、右即時抗告を受けた抗告裁判所は、債権差押及び転付命令の発せられる以前に執行債権者に送達された執行停止決定の正本を執行債務者が抗告裁判所に提出した場合(執行停止が保証金の供託を条件とするときには、その供託書をも提出した場合)には、債権差押及び転付命令を違法なものとして取消すのが相当である。

本件記録によれば、本件債務者(抗告人)は、本件債権差押及び転付命令が前記のとおり送達される以前の昭和五二年五月一一日に、その基本となつた債務名義である仮執行宣言付判決(東京地方裁判所昭和五二年(手ハ)第四六三号事件)に基づく強制執行につき、その停止決定(前同庁昭和五二年(モ)第七一〇三三号事件)を得ていたこと、右停止決定正本は同年五月一三日に本件執行債権者(相手方)に送達されていたこと、執行債務者(抗告人)は、本件即時抗告申立と同時に右停止決定の正本(写)を当裁判所に提出したことが認められる。

以上の事実関係のもとでは、本件即時抗告は、これを許容すべき場合であることが明らかであり、本件債権差押及び転付命令は、取消を免れない。

よつて、本件即時抗告は理由があるからこれを認容し、抗告費用の負担につき、民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(外山四郎 海老塚和衛 鬼頭季郎)

別紙〈省略〉

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